5.24.2017

20 dollars. FL ⇒ CA

片岡義男。
オートバイ乗りに限らず、多くの人が一時期熱病のように取り憑かれる氏の作品群。その空気感が表現された描写はエンターテイメントとしての面白さというより、感覚を共有できる心地よさみたいな読後感を体験させてくれた。そして、コラムやエッセイで教えてくれた新鮮な驚き。氏の作品は、若かった僕に生きていくうえでの姿勢を意識させてくれた気がしている。

片岡さんがポパイの創刊号から連載していたコラムをまとめた一冊の作品がある。「5Bの鉛筆で書いた」というタイトルだ。その中にCTにまつわる一編がある。'70年代のアメリカのオートバイ雑誌に掲載された記事を紹介している。ある失業した男が職探しのためにフロリダ州のマイアミから、カリフォルニア州ロサンジェルスまで改造したホンダで走ったら、ガソリン代はたったの20ドルだったという話だ。

男が所有していたのは1974年製のHonda Trail 90。CT90 K5と呼ばれるこのモデルにはすでに北米仕様の特徴的な装備であるスウィベル式のハンドルロックやサブタンクが採用され、基本的な構造は最終モデルと変わらない。ただ、89.6ccのエンジンは7psと非力で、普通に考えたらとても大陸を横断する気にはさせないモデルだったと言える。

興味をそそるのは長距離を走りきることを想定した改造の内容だ。右手だけでアクセルを操作し続けると疲労が溜まりやすいので、ハンドルの左手側に装着したレバーをアクセルとつなぐことでクルーズコントロールの機能を持たせている。そして、アップハンドルの中央にサブタンクを固定して、キャブレターにホースをつないで航続距離を伸ばした。

マイアミからロサンジェルスまでは約2,700マイル(約4,350キロ)。軽量なオートバイで走ることで起こりえるさまざまな危険を避けるために、できるかぎり古いハイウェイやサイドロードを走ったというから距離はもっと長かったはずだ。燃費は1ガロンあたり130キロ(34.2km/l)、平均巡航時速50キロで1日400キロ走った。ガソリン代は20ドルだったが、モーテルの宿泊代は150ドルかかったらしい。

結果的に男はこの修行のような旅を完遂する。CT90はほぼノントラブルで走り通し、その頑丈さを証明した。記事にはフロリダからカリフォルニアまで8つの州を走破する間に出会う壮大な自然を、オートバイで走ることで体感する素晴らしさが綴られている。オートバイで旅する者だけが味わうことができる喜びが伝わってくる。

CT90 K5 1974年モデル



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